• 5月 20, 2024
  • 6月 24, 2024

~高血圧について~ 飲み続ける? 飲み続けてはいけない?

高血圧についてよくある質問にお答えします。

降圧剤は一生のまないといけないんでしょ? 医者に勧められても絶対飲み続けてはいけない薬ランキングにいつも降圧剤って出現しますよね?

といった質問を多数受けます。

また、2024年4月から、特定健診における高血圧での、「医療機関を受診した方がいいですよ」という判定基準が、現在の「収縮期140/拡張期90」から「収縮期160/拡張期100」へと変更があるように記載があり、これだけを見ると、高血圧ってしっかり管理しなくていいのではないの?医者ってなんでも血圧下げたがりますけどそれって意味あるんですか?っと思う気持ちもわかります。ただこれは日本高血圧学会が内容の解釈に 誤解が多いため再度、受診推奨判定値の解釈についてという声明文を出しておりますのでそれをご覧になって頂ければと思います。(202405-level.pdf (jpnsh.jp)

まず血圧管理というものを、どのように決定しているかのお話をいたします。
それはいたってシンプルです。大勢の人間と血圧との数値との関連に脳心血管、死亡などにどのように関連しているかを調べた結果、高血圧と診断する数字を決定し、一番死亡率や、脳心血管病の発症率が少なかった血圧を目標値にするのです。

約10年前に米国で行われた大規模臨床試験SPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)は1万人以上ものデータを解析された臨床試験でした。

 この臨床試験では「血圧は低いほうが良い」との結果が出ています(「A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control」 N Engl J Med 2015; 373:2103-2116)。

ちなみにこの研究は5年間追跡調査する予定でしたが「血圧は低い方が良い」との明確な結果が出たために3年間で中止されています。

そして他も含めこれらの大規模臨床試験の結果をまとめたのが、日本高血圧学会が提唱している 「高血圧治療ガイドライン2019」です。おそらく2024年に改定版がでると思いますのでまたそれはup dateしたいと思います。

その内容を紐解くと、血圧の高さと、脳心血管病リスクとの間には連続的な正の関連があるのは、欧米、日本すべてで証明はされております。ただこれには注釈があり、年齢によってのリスクが変わる、併存疾患によってリスクが変わるということは注意が必要です。

我が国での主要なコホート研究の統合プロジェクトであるEPOCH-JAPANでは国内10コホート(計約7万人)のメタ解析が行われ、40ー64歳の中年者、65-74歳の前期高齢者において血圧レベルと心血管病死亡ハザード比の間には、ほぼ直線的な関連を認めたことが示されていますが、その傾きは年齢が若い方が急でした。つまり、40~64歳の中年者の超高血圧はリスクは相当高く、65~74歳のリスクは中等度程度という表現です。ただどの年代も一致していえることは、120/80mmHg未満の脳心血管病死亡リスクがもっとも低いことが示されました。一方で、75~89歳の後期高齢者でも、血圧の高さとともに、脳心血管病死亡リスクは高くなる傾向にあり、130/85mmHg以上から有意なリスクの上昇がみられました(全脳卒中、脳梗塞、脳出血、心臓血管疾患などすべての病型別死亡で確認しても同様に認める)。つまり年齢によって血圧目標値は違うのです。内服する薬を減らすことができる方、過剰に降圧剤のんでいるという人が一定数現れるわけなので、恐らく、インターネット上で薬を飲み続けるな、ということを発言している医師はここのことをスポットを当てていると考えられます。あと血圧と死亡率との関係性での注意点は、因果の逆転です。これをよく皆さんは解釈が間違えるので伝えておきますと、人は、死亡前に血圧が下がり、低い血圧レベルで死亡率が高くなるように見える現象が起きます。これをしっかり血圧の解釈を行うときに間違えないようにする必要があります。

「脳心血管病の危険度合い」で120/80という血圧を危険度1とした時に、血圧180/110以上であれば、40~64歳では約10倍、65~74歳では、約4倍、75歳~89歳では、約1.5~2倍という差があります。要は年齢によって降圧を行う意義の強さ加減は変わってことがわかります(とはいえ、降圧をしなくていいという理由にはなりません)。しかも90歳以上の血圧管理のデータは日本にはないのも実情です。 薬などの副作用を加味すると厳格に降圧をすることが得てしてよくないことに結び付くこともありますのでこれこそケースバイケースということにはなるでしょう。

それでは、冒頭の質問に答えます。

「降圧剤は一生のまないといけないんでしょ?」

→ 降圧剤をまず始める前に、血圧の数値、その方が併存している臓器障害を起こしうる危険因子の数 が重要になってきます。

その内容次第では、生活習慣を是正することで(腹囲の改善、体重の改善、脂質の改善など)、内服薬を飲まないでも血圧管理が正常化する方はおられます。その場合は、

減量もしくは、内服薬の中止は可能です。ただ、ある程度のご年齢になられて、今までの何十年の生活習慣を変えるのは並大抵の努力ではないのはお分かり頂けると思います。 なので一般的に、薬を飲み続けることになるといった言葉があるんだと思います。

薬の副作用のことが心配という声はよく聞きます。薬の説明、飲み方などから安心して内服してもらえるように致します。ぜひ、ご相談ください。

「医者に勧められても絶対飲み続けてはいけない薬ランキングにいつも降圧剤って出現しますよね?」

→ これは薬というものを、どの角度からみているかという話です。

例えば、車に例えましょう。 近年、車の事故が増えています。事故をすると命に関わる、事故で他人を傷つけることがあるという一部分をクローズドアップして、車は 悪 だとなりますでしょうか? 車は、法律を守り、使い方を間違えなければとても便利で、人生を豊かにしてくれる道具ではないでしょうか? 降圧剤も同じです。使い方を間違えなければ、とても有意義な薬となるわけです。それを世の中の一部の偏ったデータをみて(例えば、100歳の方にに降圧剤をだして120台の血圧を目指し、副作用で腎不全増悪したなど)降圧剤を飲み続けてはいけない といった、さも全員に当てはまるような言い方にしているため皆様は混乱を招くのです。

いかがでしょうか?少しは、血圧に関わる、巷に渦巻いている疑問、に答えられているでしょうか?

他にも、付け加えて説明を補足します。 

血圧管理を行う上で、他の併存疾患の有無でもコントロールを行う意義は変わってきます(もともと脳血管疾患、腎疾患ある)。その他の確立した危険因子(低い身体活動、喫煙、高血糖、LDLコレステロール値が高い、低い多価不飽和脂肪酸、高い食塩摂取、高いBMI、低い果物、野菜摂取、腎臓病、メタボリックシンドローム)が高血圧に関連すると、心血管病リスクは上昇することは、日本のコホート研究、メタアナリシスから数多く報告されております。そのような併存疾患の数によっても治療を開始するタイミング、薬の導入するタイミング、そして降圧目標値も十人十色です。

その他にも、夜間高血圧なのか(早朝高血圧)、昼間高血圧、脈拍傾向(心筋酸素消費量の指標として)、尿蛋白の有無、降圧薬治療の忍容性(副作用、過降圧に伴う臓器灌流低下症状などの有害事象)によっても変わってきますので、当然降圧剤を飲むかどうか、飲み続けるかどうかはケースバイケースとなります。

だから皆様に覚えておいてほしいのは、 「降圧剤は飲み続けた方がいい」 や、または、「降圧剤は飲み続けてはいけない」 といった、全員、白か黒かみたいな言い方ができる領域ではないことは理解して頂きたいです。 高血圧という病気は、一人一人に合った医療を提供するテーラーメイド治療が必要であることがわかって頂けると思います。

そして降圧の最終目標は、数字にfocusをあてた調整ではなく、その方の一人一人の臓器保護です。より健康で高いQOLを保ちながら日々生活できるようにサポートすることが一番の目的です。

参考までに、血圧と脳心血管リスクとの関連を検討したほとんどの研究は、診察室血圧、あるいは健診時血圧を用いたものがほとんどでありますが、「家庭での血圧」は、診察室での血圧よりも、脳心血管病リスク予測能が優れているといわれています。そのため当クリニックでは、皆様に家庭血圧を測定するように指導するようにしておりますので、家での血圧の測定の仕方、測定する時間、タイミングなどがわからない方は是非お尋ねください。

皆様、最後まで読んで頂きありがとうございます。

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