• 4月 22, 2025

最新の ‘‘心臓の診療‘‘ について

今日は心臓のお話です。

最近は、若い方も、『胸の動悸が心配で』 『朝方に胸が痛くなる』 『歩くと胸が違和感ある』 『歳のせいか、、』など胸部症状で悩んでいる方が意外に多い、と実感することが多くなってきました。 
ちょうどそのような折、今年の3月末に毎年恒例の日本循環器学会の総会に参加してきました。
そこで得た、最新の心不全に対する考え方を皆様にお伝えしようと思います。

そこでは、日本循環器学会と日本心不全学会の合同で策定された内容と欧米のガイドラインの改訂内容に加え、最新の知見を取り入れて、心不全治療の新しい考え方が報告されました。
この改訂の重要なポイントは、国内外の最新のエビデンスを反映することはもちろんですが、100歳時代の日本の実情を踏まえ、高齢者における心不全診療にも目を向けながら、これからの私たちの健康と命を守るための数多くのヒントがたくさん記載されていました。

~ 心不全は、『予防』 ができる病気です ~

心不全 とは、多くは、静かに気づかれない状態で進行しています。 『突然』ではなく、実は『少しずつ前から』進行しているのです。
そのためガイドラインでは、心不全の発症前からのステージ分類が2段階(ステージA、B)で設けられています(発症後もいれると(ステージC、D)4段階です)。

特に、ステージAという段階は、これは心不全は全くない状態で、ただ高血圧・糖尿病・肥満・心臓血管の病気といった検診で指摘されるような段階のことをいいます。この段階で早期に気づけて病院受診・精査を行い、適した治療介入を行えるかどうかで、ステージB、ステージCへと悪化することを食い止めることができるのです。 

また、2025年から、このステージAに、慢性腎臓病(CKD)が追加されました。心臓と腎臓は密接な関係にあることが最近わかってきており、腎臓病から心臓が悪くなることも多くみられます。
特定健診でも慢性腎不全の有無がわかりますのでにご活用頂ければと思います。

その時に重要なことは、この心不全の概念、考え方を知っている先生のところにかかることが重要です。目標をどこに置いているのかによって治療内容は変わります。
つまり 血圧の数字をさげることが最終目標なのか、心不全にならないように管理をすることが最終目標なのかによって処方内容は変わります。
皆様の人生設計での目標を、‘‘ どこ ’’ に置くかによって歩む人生が違うのと同様です。

ステージAの方は、心不全を未然に防ぐ最大のチャンスなんです(もちろんステージBの方もです)。健診結果で判定C以上がついている方はぜひお近くの専門医療機関へ行ってくださいね。

~ 心不全を未然に防ぐための、採血検査での注意点 ~

採血で『 心臓のストレスマーカー(BNP、 NT-proBNP)』を測定することがあります。
これは、心臓にかかる負担を反映するホルモンで、心不全の診断や重症度の評価に有用ですが、最近はこの解釈に変更がありました。

細かい話は割愛しますが、心不全には大きく2種類あり、一つは、 拡張するのが苦手な心不全 と 収縮するのも苦手な心不全 があります。
この、拡張するのが苦手な心不全は、今までの採血での心不全のカットオフ値を使用していると見逃すことが最近わかってきました。そして、この拡張するのが苦手な心不全も放置していると、従来の心不全と同様に予後が悪いことも判明しております。

今までは、『その息切れは歳のせいだね』 と思われていた症状は、実は『心臓の拡張不全が原因』と診断がついて、その薬を内服することで症状緩和できることもよく見受けられます。その評価の一つに、早期に心臓のストレスマーカーを使用することが一役かっております。

実際、心不全の危険因子を有する40歳以上を対象にした前向き試験『STOP-HF (JACC Basic Transl Sci. 2021;6(6):497-504)』では、BNP値に基づく早期介入により、心不全による緊急入院発生率が軽減することが示されています。
さらにその他の小規模単施設無作為化比較試験でも、『NT-proBNP値の上昇を認めるも心疾患を有さない症例』、に対する積極的な薬剤の用量調整が、心臓イベントの軽減につながることも報告されております。

もし、ご自身の採血結果が、 『BNP ≥ 35 pg/mL』 または『 NT-proBNP ≥ 125 pg/mL』 の場合、一度ご相談ください。

~ 治療における、心臓の収縮する力の重要性 ~

心エコーによる、心臓機能の構造評価が重要であります。
心不全の治療薬は、収縮する力によって方針は違ってきます。心不全と一言でいっても治療の方法は千差万別です。
とくにこの2025年 循環器学会の学術集会では、

収縮する力が40以下 (HFrEF) :収縮機能が低下
収縮する力が41~49 (HFmrEF) : 中間型
収縮する力が50以上 (HFpEF) :駆出は保たれているが症状がある
収縮する力が改善した(HFimpEF):40以下だったのが治療により回復したタイプ  ← これが今回新設されました。

このように収縮する力によって分類し、治療方針を考え、内服薬の選択に違いがでてきます。
さらには、心臓エコーなどの他の所見(弁膜症、虚血)などから ‘‘ +α ’’  の薬の追加が必要かどうかも考えます。
そして、再発のリスクや、再発したときの薬剤の調整も行いやすくなります。 

つまり 高血圧症だけと思って治療薬を受けているかたと、 高血圧症に無症候性の拡張不全心を併発している方では、治療方針は違います。
ただ本人は、症状がないため、ただの高血圧だと思ってしまっている可能性があります。

最近の薬剤は、糖尿病や高血圧の治療薬であり、かつ心不全と腎不全にも治療効果がある、といった多面的に効果が確認されている薬も多くでてきております。
臓器を保護したい という思いは皆さま同じだと思います。数字だけを下げるだけといった目先の考えだけではなく、常に最終目標を、臓器保護を意識した診療が重要となります。 

たかが高血圧、されど高血圧という意識で、心臓専門のクリニックを受診してみてはいかがでしょうか?

~ まとめ ~

心不全は、 予防、早期発見、病態に合わせた治療 が重要です。
そのためには、 症状、数値、構造評価 がすべて吟味されて初めて 心臓の時間軸での管理ができるのです。
当院では、上記すべてに力を注ぎこんでおります。健診異常や、ちょっとした症状、不調といった小さな変化も対応しますので、お気軽にご相談ください。
 
そして、私事ですが、開院して約1年が経過しました。 
ちょうど昨年の3月、開院直前に循環器学会に参加していたなあと思い出し、あれから1年かぁ、と感慨深く感じております。
開院前の初心を忘れずに、引き続き皆さまのかかりつけ医として力を発揮できるよう、さらに研鑽していくつもりです。

どうぞこれからも宜しくお願いいたします。

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